発明特許で社員の権利保護 改正特許法指針案、会社保有に条件
2015/09/15 国際特許庁は14日、仕事上の発明を特許にする権利を「社員のもの」から「会社のもの」とする改正特許法にかかわる指針案を固めた。発明に対する報奨を就業規則などで決める際に、労働組合との協議や社員からの意見聴取を条件とすることなどが柱。法改正後も発明を手掛けた社員の権利を守る狙いだ。会社にとっても手続きが明確になり、従業員から訴訟を起こされるリスクが減る利点が期待できる。
改正特許法は7月初旬の参院本会議で可決、成立した。同法に基づいて特許庁がつくる新たな指針は、特許の権利を「会社のもの」にする場合に労使が取るべき手続きを定める。特許庁は16日に開く審議会に指針案を提示した上で、来年初めにも正式決定。来年4月をメドとする改正特許法の施行後すぐに告示する。
指針では労使協議、社員への開示、社員からの意見聴取の3点を会社側に事実上、義務づける。社員の発明を特許にする権利を「会社のもの」にしたい企業はまず、社員の代表である組合などと協議の場を設け、報奨の基準案を協議するよう求める。
その上で、協議して決めた基準案を社員が自由に見られる仕組みを整えるよう求める。報奨内容に不満を感じる社員が異議を申し立て、会社に直接訴えられる機会も確保する。ただ労使の協議が平行線に終わる可能性も考慮し、労使の合意は条件とせず、「誠実に」交渉することを条件とする。
特許庁が労使協議などを条件とするのは、発明した社員が報奨内容に納得する仕組みが法改正後も不可欠と考えるためだ。青色発光ダイオード(LED)発明者の中村修二氏が日亜化学工業(徳島県阿南市)を訴えるなど、2000年前後には発明の対価に不満を持った元社員が会社を訴える例が相次いだ。
法改正後は金銭だけでなく、留学の機会や昇給を伴う昇進、株式の購入権などで発明にかかわった社員に報いることが可能になる。指針では金銭以外で報いる際の手順や発明者が退職後に支払いを受ける方法なども明記し、権利がきちんと守られるようにする。
企業側にとっても特許の権利を「会社のもの」にする手順が明確になることの利点は大きい。報奨の条件で対立した社員が訴訟を起こし敗訴するなどのリスクを減らせるからだ。
指針自体に法的な拘束力はないものの、「指針に沿って就業規則を作れば、訴訟でも会社側が勝つ可能性が高い」(特許庁幹部)。経済界は「手続きを重視する指針は、産業界の望みを反映している」(大手メーカーの知財部門トップ)と指針案を評価している。
法改正後も手続きの負担を避けたい中小企業などは社内規定を作らず、特許の権利を従来通り「社員のもの」とする選択肢がある。
本文章は『日本経済新聞』から転載されたものです。