英EU離脱 どうなる欧州単一特許制度
2016/07/02 国際英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利したことで、EUで進められてきた大事業である「単一特許制度」=欧州単一特許(UP)と統一特許裁判所(UPC)=創設への影響が注目されている。
多くの国が存在する欧州での特許取得は手間とコストが掛かることが、40年以上前から議論されてきた。UPCに関する協定にあと5カ国批准して発効すれば、単一特許制度は2017年中には発足するところまで来ているが、批准していない国の一つは英国だ。
すでに欧州特許庁(EPO)のブノワ・バリスティリ長官は、英国の国民投票について「英国はEPOを脱退するのではない」との声明を出し、既存のEPOルートでの英国出願に影響はないと強調したが、投票前には単一特許制度発足への影響には懸念を漏らしていた。
日本の知財関連機関の幹部は「単一特許制度の中核となるはずだった英国が外れることになれば、費用や審査などの役割分担の問題が浮上するかもしれない。特に独仏英の先進3カ国が費用面で支えることは自明で、その一角が崩れる影響は大きく、振り出しに戻る可能性もあるのでは」とみてEPOの動向を注視している。
冷めた見方もある。欧州の大手特許事務所の幹部は個人的見解と断った上で「英国が一度批准してUPC協定を発効させ、その後の移行期間中に英国が離脱し、イタリアに代わるだけではないか」と予想する。つまり、UPC協定を前に進めることを優先し、英国が離脱するなら放っておけばいいという。
この理由について「英国は金融やサービス産業の国であり、EUにおいて産業、特に知財が関係する製造業分野での存在感は大きくなく、イタリアやスペイン、オランダの方が存在感がある。今回の離脱問題で英国の存在感はさらに下がるが、英国民が“純粋な英国”でいたいということなら、それは仕方がない」と説明した。ただ、サービス産業に関係が深い商標出願登録などの面では、既に機能している欧州連合商標(EUTM)制度から英国が外れると、EUとは別の対応が求められる。
都内の国際知財コンサルタントは、「日本企業は、今後も単一特許制度の動向を注視しながら冷静に対応し、英国のEU離脱問題に翻弄されてはいけない」と呼びかけている。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
本文章は『SankeiBiz』から転載されたものです。