他社サイトのドメインに自社商品名 どうやって使用を差し止めるか
2015/10/28 国際第三者によるウェブサイトのドメイン名の不正使用をいかに差し止めるか。根拠となる法律は、商標法と不正競争防止法の二つ。過去の判例が指し示すように、どちらの法律で何を訴えるかを明確にする必要がある。
自社の商号、商品、サービスなどの名前が、第三者のウェブサイトのドメインに使用されている場合、どうやって差し止めるか。今回は、この点に関する裁判例を見て行こう。取り上げる裁判例のそれぞれの原告は、ドメイン名だけでなく商標などの使用差し止めも請求しているが、この点については割愛する。
まず、大阪地方裁判所が2011年6月30日に判決を出した「モンシュシュ事件」を見てみよう。
この件で争いになったのは、「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」という商標で、「私のお気に入り」というフランス語だ。この商標を持ち、バレンタイン用チョコレートにこの商標を使い製造販売していたゴンチャロフ製菓は、Mon cher(モンシェール:当時の商号はモンシュシュ)が商標を侵害しているとして、使用差し止めを求めた。
ドメインの商標的使用が争点
モンシェールは、「Monchouchou/モンシュシュ」などの標章を、店舗表示、商品の包装、広告などに使用しており、自社のウェブサイトのドメイン名として、「mon-chouchou.com」を使用していた。
商標権侵害が成立するには、単に、他人の商標が商品に記載されているだけでは足りず、「商標的使用」がなされていることが必要だ。商標には、三つの大きな機能がある。
同一の商標を付した商品・サービスは同一の製造者などに由来することを示す「出所表示機能」、同一の商標を付した商品・サービスは同一の品質を有することを示す「品質保証機能」、商品・サービスを宣伝する「宣伝広告機能」だ。このような機能を果たす目的での使用が「商標的使用」となる。
モンシェールは、ドメイン名としての使用は商標的使用ではない、と争った。しかし裁判所は、ドメイン名がモンシェールの保冷バッグや包装用紙袋に表記されているほか、モンシェールの包装箱風に着色されたトラックの車体広告にもロゴとともに記載されており、モンシェールの商品や事業の宣伝広告機能を発揮しているとした。
また、モンシェールがウェブサイト上で自社商品の情報を提供し、注文を受け付けていることから、このドメインはモンシェールの商品やサービスの出所識別標識としても使用されているとした。以上の点から、このドメインは商標的使用がされているとして、ゴンチャロフ製菓が要求していた使用差し止めを認めた。
次に大阪地裁が2006年4月18日に出した判決「ヨーデル事件」を見てみよう。この裁判では「YODEL/ヨーデル」の商標を持ち、便秘治療剤を製造する藤本製薬が、医薬部外品を販売するエスロクの商標侵害について使用差し止めを求めた事件だ。
エスロクは、「ヨーでる/Yodel HERB&FIBER」を販売していたところ、藤本製薬から商標権侵害であると警告を受けた。そこで、販売を中止し、新たな標章を付した新商品の販売に切り替えた。
だが、エスロクは自社のウェブサイトのURLとして「http://www.esuroku.co.jp/under/goods/yodel.gif」などの表示を引き続き使用した。
本件でも、商標的使用の有無が争点となった。裁判所は、当該URLのページには新商品が掲載されており、「yodel」との記載に格別の周知性はないと判断した。URLの「yodel」は、エスロクの商品を識別させるための記載であるとは認識できないため、URLの表示は商標的使用に当たらない、として藤本製薬の差し止め請求を認めなかった。
特定地域での周知性も判断材料に
最後に大阪地裁が2009年4月23日に出した判決を見てみよう。
本件は、「ARK」などの表示を用いて物品販売などの収益事業も展開している動物保護団体、特定非営利活動法人アニマルレフュージ関西(アーク)が、「ARK-ANGELS(アーク・エンジェルズ)」と称する動物愛護団体の代表者に対し、不正競争防止法に基づきドメイン名の使用差し止めなどを求めた事件だ。
アーク・エンジェルズは、ウェブサイトのドメイン名として、「ark-angels.jp」の表示を使用し、当該サイトで物品の販売などを展開していた。
裁判所は、アーク・エンジェルズが、「ARK-ANGELS」の表示を付した物品をサイト上で販売していることなどから、使用しているドメインはアーク・エンジェルズ代表者の営業表示として使用されていると判断した。
また、アークが、「ARK」という表示で多数のメディアで紹介されていたことから、「ARK」の表示は、アークの活動領域である関西地域において周知性を獲得していた「周知表示」であるとした。そのためドメインの使用は、アークの周知表示である「ARK」と混同させるものであるとして、ドメイン名の使用差し止めを認めた。
西岡祐介弁護士のチェックポイント
他社によるドメイン使用を裁判で差し止める方法は大きく分けて四つある。
一つ目は、商標権侵害を主張する方法だ。この場合、他社が商標的使用をしていることに加えて、登録商標を有していること、当該ドメインの使用によって同一営業主の提供による商品・サービスであると誤認を生じさせていることが必要である。
二つ目は、自己の周知表示と混同させるものだと主張する方法。登録商標は不要だが、当該ドメインが、自己の商号、商品・サービスなどの表示であると需要者に広く認識されていること(周知性)が必要だ。
三つ目は、自己の著名表示を使用していると主張する方法である。二つ目の方法と異なり、混同を生じさせることは必要ではなくなるが、周知性よりもさらに一段高いレベルの「著名性」が必要となる。周知性が一地方で知られていれば足りるとされているのに対し、著名性は全国的に誰でも知っているような場合を指す。
四つ目は、他社のドメイン使用が、不正な目的によるものだと主張する方法。典型的なのは、ドメインを売りつける目的で使用している場合や、他社のブランド価値を失墜させる目的で低俗、悪質なサイトが作成されている場合だ。その立証は必ずしも容易ではない。
一つ目の方法は商標法、二つ目以降の方法は不正競争防止法に基づく差し止めとなる。他社のドメイン使用を差し止めるためにどの方法を用いるか。専門家と慎重に検討することが重要だ。
本文章は『日経BP社』から転載されたものです。