仁義なき〝パクリ商法〟? 「鳥貴族」の次は「丸源ラーメン」が標的 今も昔も飲食業界「模倣は文化」
2015/06/16 国際店の看板や内装、メニューにいたるまで「何から何までそっくり」と話題の焼き鳥居酒屋チェーン「鳥貴族」と「鳥二郎」。鳥貴族側が類似標章の使用差し止めなどを求める訴訟を大阪地裁に起こしたが、鳥二郎の運営会社側は「模倣は珍しいことではない」と驚きの反論を展開し、徹底抗戦の構えをみせている。そんな中、鳥二郎の運営会社が出店した「にく次郎」なるラーメン店が、大手チェーンとそっくりという新たな疑惑も浮上した。店舗の営業の差し止めを求める仮処分を申し立てられるなど、火種は徐々に広がりつつある。生き馬の目を抜く飲食業界では「模倣は文化」という風潮もあるというが、仁義なき〝パクリ商法〟はどこまで許されるのか。
■うぬぼれVSプライド
「鳥二郎が鳥貴族の営業形態の一部を取り入れようとする意思があることは否定しないが、飲食業界では数え切れないほどの模倣がなされてきた。あくまで自由競争の範囲内だ」
大阪地裁で4月に開かれた第1回口頭弁論。鳥二郎を運営する「秀インターワン」(京都市)側はこんな主張内容を盛り込んだ答弁書を提出し、鳥貴族(大阪市)に〝宣戦布告〟した。
訴訟記録などによると、鳥二郎は昨年4月以降、大阪、京都、神戸で12店舗を相次いでオープン。うち4店舗は鳥貴族が入居するビルの真上や真下のフロアで営業し、インターネットでは以前から「紛らわしい」と話題になっていた。
それもそのはず、看板はそれぞれ黄と赤の配色で、ロゴの「鳥」はもともとの象形文字から着想を得たようなデザイン。価格は鳥貴族の280円均一に対し、鳥二郎は270円均一だ。看板メニューは、鳥貴族が「じゃんぼ焼鳥」の「貴族焼」なら、鳥二郎は「ジャンボ焼鳥」の「二郎焼」。生ビールの呼称も「うぬぼれ生」(鳥貴族)と「プライド生」(鳥二郎)となっている。
さらに、いずれの店も店内は高さがふぞろいの木材が使われ、店員の制服は黒一色。極めつきは店の「信条」で、《たかが焼鳥屋で世の中を変えたいのです》という鳥貴族に対し、鳥二郎は《たかが焼鳥屋で世界が変わる》としている。
ネット上に「鳥貴族だと思って入ったら鳥二郎だった」と書き込まれたことなどから、鳥貴族は今年2月、秀インターワンを提訴。首都圏や関西圏で約400店舗を展開し、年間約1200万人が来店する鳥貴族の顧客吸引力にただ乗りする不正競争防止法違反だと訴え、類似標章の差し止めのほか約6千万円の損害賠償も請求した。
■パクリは業界の常識?
だが、秀インターワン側も反論に打って出た。答弁書では「飲食業界は模倣を前提に成り立っている。競合店が互いに模倣し合って外食産業は発展してきた」とし、業界で〝パクリ〟は常識だと主張。鳥貴族の社長が以前に経済誌のインタビューで、行きつけの飲食店が均一価格だったことをヒントに価格を「280円均一」にしたと明かしていたとし、「社長も模倣が起業のきっかけになったと認めている」と指摘した。
さらに、「『塚田農場』と『山内農場』、『磯丸水産』と『豊丸水産』の例もある」などと他の類似例を次々と証拠提出。鳥貴族と鳥二郎のロゴや営業形態は「似ていない」とし、同じビルに入居していることについても「飲食店の常套(じょうとう)手段ともいうべき戦略の一つで、鳥二郎が特別なわけではない」とした。
この反撃に対し、鳥貴族側は5月末、秀インターワン側の主張が「根拠のない憶測だ」とする準備書面を提出。「仮に業界で模倣があったとしても適法であることは意味しない」と切り捨てた上で、「意図的に競業を仕掛け、顧客吸引力にただ乗りする行為を野放しにすれば、独自性のある店舗を展開するインセンティブ(動機付け)が著しく損なわれる」と訴えた。
■「肉そば」もトラブル
激しい法廷闘争が繰り広げられる中、秀インターワンには新たなトラブルも生じている。全国に100店舗以上を展開する人気ラーメンチェーン「丸源ラーメン」の看板メニューや外観とよく似たラーメン店を出店したとして、チェーンを運営する「物語コーポレーション」(愛知県豊橋市)が5月14日、秀インターワンに営業の差し止めなどを求める仮処分を大阪地裁に申し立てたのだ。
問題となっている店は、兵庫県西宮市の阪神電鉄西宮駅から南に約500メートルの幹線道路沿いにある「にく次郎西宮店」。物語コーポレーション側は申立書で、丸源ラーメンの代名詞である「熟成醤油(しょうゆ)肉そば」と全く同じ名前のメニューがあるほか、店の外観や店員の服装が酷似していると指摘。丸源ラーメンと混同した客を意図的に呼び込もうとしていると訴えている。
加えてネット上では、秀インターワンが以前、学校の教室をモチーフにした人気の居酒屋チェーンとそっくりの居酒屋を京都市内に出店していたとする“告発記事”も出ている。
■違法立証に難しさ
このような秀インターワンのビジネスモデルについては、消費者から「さすがにアウト」といった声も上がるが、法律家の見方はいささか異なる。知的財産訴訟に詳しい堀田裕二弁護士(大阪弁護士会)は、鳥貴族と鳥二郎の対決について「これまでの判例を考えれば鳥貴族にとって決して簡単な訴訟ではない」と指摘する。
不正競争防止法は、「需要者(例えば消費者や事業者)の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」を禁じている。
鳥貴族側には、(1)鳥貴族の看板や営業形態が世間に広く知られているという「周知性」(2)鳥貴族と鳥二郎を客などが似ていると認識する「類似性」(3)客などが店を間違えてしまう「誤認・混同の恐れ」-の3つの要件を立証する必要があるという。
その証拠に、鳥二郎側は答弁書で、鳥貴族側が首都圏や関西圏といった特定地域にしか出店していないことから、「鳥貴族に全国的な知名度はない」と反論。さらに、鳥貴族と鳥二郎の価格設定の違いを強調し、「消費者は価格にシビア。鳥二郎の方が10円安いのだから、誤認・混同の恐れはない」と主張している。
■判決回避の可能性も
「模倣は文化」とも揶揄(やゆ)される飲食業界では、これまでもたびたび同じような問題が訴訟に発展してきた。有名なのは大手居酒屋チェーンの「和民」と「魚民」の運営会社が、赤地に白抜きの看板の類似性をめぐって争った訴訟だが、平成16年に魚民側の看板使用を中止する義務がないことを和民側が認める内容で和解。結局、似ているか否かという司法判断が下されることはなかった。
堀田弁護士は「鳥貴族側の立証のハードルが高い一方、鳥二郎側にとっても訴訟が長引けば長引くほど模倣したのではないかというマイナスイメージがつく。今回も双方が早期決着を図った方が得策だと判断し、判決まで争わずに和解する可能性がある」とみる。
5月のある夜、大阪市内の鳥二郎の店舗はサラリーマンや学生らでにぎわい、店外で席が空くのを待つ客の姿も。店内の至るところには《たかが焼鳥屋で世界が変わる。そんなプライドを鳥二郎は、永遠に大切にしたい》という鳥貴族そっくりの「信条」が掲げられていた。
本文章は『産経WEST』から転載されたものです。