[社説]AIの著作権ルールを明確に
2023/06/29 日本自然な画像や文章などを作る生成AI(人工知能)による著作権侵害への懸念が高まっている。AIの学習目的で著作物を利用するのは問題ないが、出力した画像などを利用する場合は違反となる場合がある。どんなケースが侵害に当たるのか、政府は運用ルールを明確にすべきだ。
画像生成AIはいくつかの製品が無償で公開され、世界中に広がった。利用者が既存の作品とよく似た画像を作り出し、制作者らの反発を招いている。米国では、開発元の英スタビリティーAIが著作権侵害などで訴えられた。
生成AIを鍛えるためにはインターネット上の膨大なデータを学習させる必要がある。日本の著作権法では、権利者の許諾なしに取り込んでも合法だ。AIの活用を促し産業競争力を強化する観点から2018年に法改正された。
欧米に比べて緩いとされるが、利用段階では悪質な行為は侵害に問える。例えば、特定の制作者の作品でAIを訓練して画像を作ると、著作権侵害に当たる。既存の著作物とよく似た画像を作るよう指示した場合も違法だ。
文化庁は過去の判例や弁護士らの意見をもとに、著作権侵害に当たる事例を整理する。6月以降、説明会を開いて周知する計画だ。内容の広報にも力を入れ、一般の利用者にも啓発してほしい。
権利者の要請に対応する企業も出てきた。米ソフト大手のアドビは著作権を持つキャラクターや画像を学習データからはずした。提供に応じた作者に対価を支払うことも検討する。作者の要請に応じて作品を学習データから除外する対応を取る開発元もある。
有料の記事や写真、著作権の切れていない小説を生成AIの学習に使うことについては、著作権侵害うんぬんの前に契約違反にあたることがあり、注意が必要だ。
AIの活用で仕事の生産性は大幅に向上する。技術革新を阻害せず、同時に著作権者の権利にも十分配慮したルール形成、合意形成を急ぐべきだ。
※本文章は『日本経済新聞』から転載されたものです。