「西尾の抹茶」商標危機
2017/07/24 国際特産品のブランドを、政府などが知的財産として守る地理的表示(GI)保護制度に登録された「西尾の抹茶」(愛知県西尾市など)の商標を、中国企業が欧州連合(EU)と中国で申請し、8月以降、登録される予定となっていることがわかった。登録されると、日本側は現地でブランド展開ができなくなる。生産者らでつくる西尾茶協同組合は「悪質なブランド乗っ取りで到底、認められない」として、現地の当局に近く異議を申し立てる。
組合が今月、EUで「西尾 NISHIO」、中国で「西尾抹茶」「NISHIO MATCHA」が申請されているのを確認した。うちEUと中国の一つずつが審査を通過しており、期限内に異議申し立てがなければ登録されるという。
経済連携協定(EPA)を今月、大枠合意した日本とEUは、「神戸ビーフ」や「スコッチ・ウイスキー」など相互のGI産品について保護する方向で調整していることもあり、組合は、EUへの異議申し立ては認められるだろうとみている。一方、中国との国家間の相互保護に関する交渉は進んでおらず、農林水産省の担当者は「現状では自治体や生産者団体に自衛してもらうしかない」と言う。
異議申し立ての費用は1件につき数十万円。組合の担当者は「県や市にも中国への働きかけや費用面で支援してもらいたい」と話している。
西尾の抹茶は渋味が少なくまろやかで、愛知県西尾市や同県安城市で生産され、粉末30グラムが1000~1500円で販売されている。昨年は国内に約370トン、米国やカナダなど海外に約100トンが出荷された。今年3月、GIに登録され、国内では農水省が不正な商品を取り締まる。
組合は昨年9月、「Nishio Matcha」を含む商標を中国や韓国、米国など6か国に一括して国際出願。それとは別に出願した台湾では今年6月、登録された。
ただ、中国では西尾の抹茶を名乗る商品やカフェがすでにあるという。中国企業の商標が登録された場合、組合の出願は同国では却下されるとみられる。
生越由美・東京理科大教授(知的財産政策)の話「中国ではブローカーが日本の地域ブランドを商標登録し、日本側が進出する際に商標権を売りつけるビジネスが横行している。中国企業の登録阻止に向け、愛知県や西尾市が政府に具体的な中国への働きかけを求めていくべきだ」
2017年07月24日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
本文章は『読売新聞』から転載されたものです。